クリエイティブな広告の炎上チェック
広告自体の問題点:問題度 低
結果:炎上
理由:賛否両論なコピー
該当広告:KANEBO | 生きるために、化粧をする。 | 広告事典【編集部】
炎上ポイント クリエイティブな広告がなぜ炎上したのか?
意図が分かりいくいコピー
1 意図が分かりにくい
2 切り取って見られがち
背景の社会構造
3 社会状況との乖離
1 意図が分かりにくい
真意が伝わらず、分かりにくい広告と受け取られました。これが炎上した一因だと思います。広告では多様な国の多様な女性の化粧が映され、「何のために 化粧をする?」と問いかけます。最後に「生きるために、化粧をする」というコピーが表示されます。
カネボウの広告
化粧なんて何のためにするのだろう、と言う人がいる。 化粧で喉は潤せないし、 お腹だって満たせない。 それでも、わたしたちは化粧をする。 美しさのため? 誰かのため? あなたは、何のために化粧をする?
これを見ると、消費者が「どの国の女性も、社会で生きるために化粧をしている」という意味で理解するのは自然なことだと思います。筆者自身、たくさんの広告調査を行い、コピーの意味や広告の流れが分かりにくい事で、消費者に混乱を招く広告を見てきました。今回のカネボウのような抽象的な企業広告にはよくあることです。雰囲気でブランドの高潔さが伝わればよかったのですが、今回は上手く伝わりませんでした。
2 切り取って見られがち
更に最後のコピーだけが日本語でスムーズに頭に入ってくるので、ナレーションの言葉は記憶に残らず、「生きるために、化粧をする」のコピーだけが切り取られて受け取られてしまったことも、カネボウには不幸でした。
背景の社会構造
3 社会状況との乖離
昨今の社会の状況を考えてみると、まだ「生きるために、化粧をする」というコピーは少し先進的すぎる気もします。
というのも、実際に日本の女性は、自分のためだけでなく社会で「生きるために」化粧をしている節が事実としてあるからです。新卒のためのナチュラルメイク、毎日出社でのメイクというような決まった型があり、すっぴんで外に出ると他人からの視線を感じるという人も多いはずです(これは男性においてもスーツの着こなしやひげの有無など同じ状況です)。
この女性の服装やあり方への文化的な強制に対して、2010年代から、脱コルセット運動、「#KuToo運動」など、反発が多く起きています。
そんな現状で「生きるために化粧するっていう意見があってもいいよね」というカネボウのコピーは、「いや、毎日生きるために化粧しないといけないのががだるいんだわ」と考えてた人にとって、現状を再認識するきっかけになってしまったようです。
このコピーは、日本社会で消費者、特に女性が、化粧はしてもしなくてもいい、と言う共通認識が浸透し、化粧の目的の多様化してからだと、多くの人に刺さったんじゃないかな、と思います。
見習える広告制作と炎上後の対応
物議をかもしたカネボウの広告ですが、カネボウの広告には意図がありました。カネボウは下記のように説明をしています。
広告意図
まず、広告コピーにはカネボウのブランドポリシーと呼べるものがあり、何も考えずに女性に化粧を強要する意図で制作されたものではないということです。
更に炎上後の対応ポイントを紹介します。
・コピーの意図を説明する
①CMではどのようなことを伝えたいのでしょうか。
ひとが、自分らしく「生きていく」ためには、様々な方法があり、その1つに“化粧をする”という行為があると考えております。化粧には、年齢や性別に関係なく、誰にとっても、気持ちや行動を変え人生を豊かにする力があると信じているからです。このことをお伝えするために、世界各地から幅広い年齢のキャストを性別問わず起用し、この広告を制作いたしました。
②「生きるために、化粧をする。」とはどういった意味ですか?
繰り返しになりますが、ひとが自分らしく「生きていく」ためには様々な方法があり、その1つに“化粧をする”という行為があると考えております。化粧には、年齢や性別に関係なく、気持ちや行動を変え、人生を豊かにする力があると思っているからです。このことを、「生きるために、化粧をする。」というメッセージに込めました。
③どんな反響がありましたか?ネット上の炎上をご存知ですか?
さまざまな、貴重なご意見を頂戴しております。
④炎上に対してどのように受け止められていますか?
すべてを貴重なご意見として耳を傾けて参ります。そして、「I HOPE.」を掲げ、希望を発信するブランドとして、年齢や性別に関係なく、自分らしく「生きる」ために化粧をしたいと考える方を心から応援するメッセージと商品を、今後もお届けしてまいりたいと考えています。カネボウCMに「化粧を強制しないで」と抗議の声。「生きるために、化粧をする。」が伝えたかったこととは?
・焦って広告を取り下げない
ブランドとして強い意志と背景意図があったので、炎上は批評家からあまり問題視されてはいません。
企業が批判に反応して広告を取りやめ無かったことも、消費者には何も考えず女性軽視しているのではないことが伝わった要因かと思います。
炎上可能性をゼロに!正しく意図を伝える広告にするには?
しっかりとした企業の意思があったのに、間違って広告が受け取られ、批判を集めてしまうのは企業として損失です。
カネボウの意図したメッセージを伝える際にはどうしたらよかったのだろう、と考えてみます。
「自分らしく生きるために、化粧をする」だと、「”社会的に”生きるために化粧が必要である、化粧しないといきれない世の中だ」と間違って捉えられる事はなかったかもしれません。
また、女性だけを映した広告だったのが惜しいと思います。
カネボウのブランドの話にもなってしまうのですが、カネボウが説明しているように、この広告が、社会的に「他人/社会規範のために化粧をする」の意味でなく、「自分/生命維持のために化粧をする」という意味だったのであれば、女性だけでなく、伝統的に化粧をしている男性や生命維持のためにカラフルに色を出す鳥など他の生き物を表示しても良かったかもしれません。
そうすることで「生きるために、化粧をする」の主語が女性に限定されず、かつカネボウの多様な化粧の目的、「生きる」の意味について良く伝わると思います。
生きるために色で魅了する鳥
広告の良し悪しはどう評価するのか
広告炎上や批判可能性を抑えること、メッセージを適切に伝えるには、
社会背景や、ターゲットの傾向、感情など様々な要因を理解する必要があります。